進化し続ける東京都市大学Vol.2

グループの総合力と各校の伝統を生かし、未来を見つめた教育・研究を推進する。

2009年4月、学校法人五島育英会が設置する武蔵工業大学は、5学部16学科を擁する総合大学、「東京都市大学(略称:都市大)」として新しい一歩を踏み出した。 併せて、付属の幼稚園から、小・中・高等学校を含めた「東京都市大学グループ」が誕生した。それからおよそ2年。武蔵工業大学が培ってきた工学系教育の伝統と、 グループの総合力とを生かしながら、休むことなく進化し続ける都市大&都市大グループの“今”をご紹介する。

優れた研究成果こそ、高度な専門性の証し ─ 都市大の特色ある研究開発


都市大では、教員と学生とが、あるいは研究室と企業、自治体などとが互いに協力しながら、さまざまな領域において先進性の高い研究活動を推進し、持続可能な未来社会に貢献する着実な成果をあげ続けている。工学部、知識工学部、環境情報学部、都市生活学部、人間科学部の5学部16学科は、それぞれ特色ある研究室を多数備えて、明日の日本、未来の人類社会を真に豊かにするためのリサーチを展開中だ。国際的にも大きな注目を集める画期的な業績の中から、その一部をご紹介しよう。

エンジンから冷蔵庫まで・・・。世界が注目する〈薄膜センサ〉を開発!

薄膜センサ

 赤い矢印部分が〈薄膜センサ〉。
エンジン性能に役立つデータを計測する

工学部内燃機関工学研究室の三原雄司教授の専門は〈トライポロジー〉。モノとモノとが接触する部分における摩耗や潤滑のメカニズムを扱う学問だ。三原先生は、このトライボロジー領域に、半導体技術を応用。エンジン部品に、厚さわずか数ミクロンという〈薄膜センサ〉を蒸着させることに成功した。薄膜センサは、目的に応じて、厚み、温度、圧力、距離、ひずみなどを計測できる。基礎的な技術を構築するまでにおよそ5年の歳月を費やし、「その間、失敗の連続だった」と言う。しかし、「エンジンを動かしながら実測することで、燃費性能、低騒音性、耐久性の進歩に貢献できる」と、粘り強く研究を継続。ディーゼルおよびガソリンエンジンでの実測に成功した。以降、大手自動車メーカー各社と共同研究を進め、2004年国際燃焼機関学会の最優秀賞を、09年には米国最大の自動車関連業界団体SAEの優秀技術賞を受賞。その動向に今や世界が注目する。「この計測技術は、自動車エンジンだけでなく、潤滑面を持つあらゆる機械部品に応用できます」と、三原先生。近年では、エアコンや冷蔵庫などのコンプレッサに薄膜センサを取り付け、小型化、低騒音化、省エネのため必要なデータを抽出している。国内外から共同研究のオファーが引きも切らない三原先生。その可能性は無限に広がっている

三原 雄司

三原 雄司 (工学部 機械工学科 教授)

1989年武蔵工業大学(現:東京都市大学)工学部機械工学科卒業。95年同大学院工学研究科機械工学専攻博士課程修了。96年武蔵工業大学助手、98年講師、2003年米国デューク大学客員研究員、同年助教授、11年より教授となり現在に至る。2004年CIMAC Best Paper Award、2009年米国SAE Colwell Merit Award受賞。自動車技術会(フェロー)、日本機械学会、日本トライボロジー学会(理事)会員。

食虫植物の研究を通じて“進化のメカニズム”に迫る

イグアナ

 「特殊な環境」が「特殊な生物」への
進化を引き起こす。ガラパゴスはそんな
「特殊な生物」の宝庫だ

知識工学部の倉田薫子講師は、ウツボカズラなど食虫植物がどのように進化してきたか探求している。ウツボカズラは同じ種であっても多様な形を備えている。地域ごとに異なる環境条件に応じてゆるやかに分かれていく、いわば“進化の過程”を遺伝子レベルで確認できるのだそうだ。「ウツボカズラは非常に過酷な環境に生きており、わずかな条件の違いがその生死を左右します。さまざまな要件を緻密に分析することにより、自然環境と生物進化との相関や、進化のメカニズムに迫っていきたい。」その研究手法はフィールド調査と最先端の分子解析とを組み合わせたもの。ボルネオ島やニューカレドニアなど原生林が残る地域に赴いて生育環境を記録するとともに、そこから持ち帰ってきたサンプルをDNAレベルで解析する。地道な努力と、大胆な行動力、細心の観察力、広範な知識、さらに尽きせぬ好奇心が必要とされる。「自然科学科では、数億年という長大なタイムスケールで地質を研究している先生もいます。環境や生物多様性の問題が注目されていますが、自然界のシステムを理解するためには、今現在にとらわれるのではなく、時間を超越した大きな視点も不可欠でしょう。」
今は「ダーウィン進化論」の島ガラパゴスにて、この島で特殊に進化した植物の研究を行っている。

倉田 薫子

倉田 薫子 (知識工学部 自然科学科 講師)

2000年東京学芸大学教育学部卒業、京都大学大学院修士課程および博士課程修了(06年)。06年武蔵工業大学(現:東京都市大学)工学部講師に着任。現在、東京都市大学知識工学部自然科学科専任講師。ボルネオ島、ニューカレドニア、ハワイ島、ガラパゴス諸島、小笠原諸島などでフィールド研究に取り組む。現在、学校法人五島育英会からの支援を受け、エクアドル共和国ガラパゴス諸島のチャールズダーウィン研究所に客員研究員として赴任中。

あらゆるアプローチを駆使し失われつつある自然を回復する

ビオトープ

 横浜キャンパスに設置されたビオトープ。
生物多様性を考えるきっかけになる

「急速に失われつつある自然の生態系を回復することが私のテーマ」と語る環境情報学部の田中章准教授。そのための調査からプランニング、デザイン、評価手法の確立、政策や法制度、国際的な環境協力に至るまで精力的な研究・啓発活動に取り組んでいる。「現在、絶滅危惧種が増加し、生物多様性の維持が脅かされています。これは人類にとって、地球温暖化と並んで由々しき事態。生態系のバランスが崩れていけば、同じ生態系の一部を構成する人類の存亡に関わるんです」と警鐘を鳴らす。
生態系破壊の最大要因は、“開発”。「50haの自然の開発を避けられないのであれば、近隣に同様の自然を創り出し、同地域の自然の質と量を維持することが重要です」と田中先生。“生物多様性オフセット”と呼ばれ、日本でも徐々に知られるようになってきたこの政策を、先生は他に先駆けて20年も前から提唱してきた。ほかにも、自然の復元度合いなどを定量的に評価する手法、“HEP”を紹介するなど、先端的な活動を続けている。2010年、名古屋で開かれたCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)を機に、生物多様性という言葉は一気に一般に広まった。「このような動きが一過性のものとならないよう、生物多様性の問題に緊急かつ長期的に取り組んでいきたい」と田中先生は表情を引き締めた。

田中 章

田中 章(環境情報学部 環境情報学科 准教授)

東京農工大学農学部環境保護学科卒業。ミシガン大学大学院ランドスケープアーキテクチャー課程修了(M.L.A.)。東京大学大学院農学生命科学研究科緑地学専攻博士課程修了(農学博士)。2002年武蔵工業大学(現:東京都市大学)環境情報学部環境情報学科助教授に着任。環境アセスメント学会常務理事、日本造園学会代議員、葉山町環境審議会長などを歴任。著書に「HEP入門マニュアル」など多数。

エリアマネジメントの手法で。まちを再生し、都市を活性化する

現在の丸の内仲通り

 首都東京の顔にふさわしい高級感を
漂わせる現在の丸の内仲通り

都市生活学部の小林重敬教授は、「都市のあるべき像を、ハードとソフトの両面からマネジメントする」という〈エリアマネジメント〉の提唱者で、実際に全国の都市やまちをこの方法で再生してきたエキスパートだ。
小林先生は、およそ20年前、衰退の兆しが見え始めた大手町・丸の内・有楽町(大丸有)地区の都市づくりプラン策定に着手。丸ビル、新丸ビルなどのビル再開発や、丸の内仲通りのファッションブランド街化を実現した。2005年にはこの手法を紹介した編著書「エリアマネジメント」を出版。以降、福岡の博多天神や、大阪駅、名古屋駅周辺など、わが国を代表する大都市の再生を先導している。先生の手法は地方都市にも波及し、高松市で400年以上続く丸亀町の商店街再生は、全国でもっとも成功したケースとして知られる。ほかにも、滋賀県長浜市や、静岡県沼津市町方町など、エリアマネジメントを活用したまちづくりの動きが全国的な広がりを見せる。「これからはハード中心のまちづくりから、まちを『育てる』というソフトな発想が必要。まちを育てるには、地権者はもちろん、できるだけ多くの関係者に参画してもらうことが大切です」と語る小林先生。自ら確立したエリアマネジメント手法をさらに美しく磨き上げている。

小林 重敬

小林 重敬(都市生活学部 都市生活学科 教授)

1973年東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了(工学博士)。横浜国立大学教授などを経て、2008年武蔵工業大学(現:東京都市大学)新学部設置準備室特任教授に就任。現在、東京都市大学都市生活学部都市生活学科教授。横浜国立大学大学院特任教授、政策研究大学院国際都市研究学院講師を兼任。「エリアマネジメント」、「都市計画はどう変わるか」など著書も多数。

子どもたちの文化受容・創造プロセスを“言葉と遊び”の領域から考える

おもちゃ

 絵本を手作りしたり、世界の良質な
おもちゃを対象とするなど幅広く研究

子どもはそれぞれに個性を持った特別な存在。人間科学部の内藤知美教授は「一人ひとりの違いをきちんと見つめ、その長所を引き出していくのが保育者の役割であり、就学前教育の意義なのです」ときっぱり語る。子ども理解を原点として、幼稚園・保育所などの場で子どもたちがいかに文化を受容し、創造するのか、そのプロセスを実践的に研究していくのが内藤先生の主宰する研究室のテーマである。たとえば、保育現場に絵本・紙芝居・おもちゃなどの児童文化財を持参し、読み聞かせ方による子どもたちの反応の変化をリサーチしたり、子どもの視点で絵本やおもちゃを制作するなど・・・。世界の良質なおもちゃや児童文学などの研究も行っている。「もちろん、良い絵本、良いおもちゃを与えるだけに終わってはなりません。大事なのは子どもにどう届くか。文化の届け方こそが、すなわち保育方法なのです」と内藤先生。目指しているのは、児童文化財や言葉の領域の研究を通して、保育の専門性を高め、確かな実践力に結びつけていくこと。「研究室のすぐ横には子育て支援センター『ぴっぴ』もあり、実践研究の場にはことかきません」。未来の宝物である子どもたちを見つめる、その眼差しはあくまでも温かい。

内藤 知美

内藤 知美(人間科学部 児童学科 教授)

奈良女子大学文学部を卒業後、お茶の水女子大学大学院修士・博士課程修了。鎌倉女子大学児童学部准教授および同幼稚園園長を兼任後、09年より東京都市大学人間科学部児童学科教授。日本児童文学学会理事、OMEP日本委員会理事、また神奈川県生涯学習審議会専門委員、神奈川県私立幼稚園教員研修講師、「横浜子育てサポート」講師などを務める。保育現場と連携した保育者養成を目指している。